同棲

三題噺/お題:『うそ』『サクラ』『縛』

「冬海さん、幸せの巻」








 ふと、慣れない感触に目が覚める。
 自分以外の温もりに、吐息に、香りに。

「ん……ふ……」

 僕の腕の中、時折身を動かす冬海さん。
 その寝顔は、嬉しそうで幸せそうで……。

「冬海さん……♪」

 つんつん。

 柔らかそうな頬を、指先で突付いてみると。
 ぷよぷよとした弾力と、『んむ〜っ』という声。
 僕は堪らず、彼女の身体をぎゅっと抱きしめてしまい。

「ん……あ、直人君っ!?」

「あ、起こしちゃった? ごめ……」

 ごめんね、と言いかけた僕。
 両腕の束を解きかけた僕。

 でも、その時。

「なっ、何で直人君がっ!? それに……は、はだっ……」

「……え?」

「っきゃ――――っ!」

 ぱっと目を覚ました冬海さんは……状況を把握していないのか、突然大きな
悲鳴を上げてくれて。

「ふっ、冬海さんっ」

「もがもがもがっ」

 慌てて彼女の口を手で塞ぐ僕。
 しばらくそうしていると、眠りに就く前のことを思い出してくれたのか……
もがくことを止め、急に静かになってしまい。

「……冬海さん?」

 彼女の口を押さえている手を、そっと除けると。
 ふうっと深呼吸1つ、冬海さん。

「そうそう……そうなのよね」

 何かを確かめるように、うんうんと頷いて。
 僕の様子を伺うように、僕の顔を見上げ。

「……おはよ、直人君」

「おはよう、冬海さん」

「…………」

「…………」

 そして、無言。
 お互いに何も言わずに……言えずにいると、冬海さんの顔が段々赤くなって
来て。

「あの、そのっ……何だね、恥ずかしいねっ」

「……うん、そうだね」

 何だか、冬海さんがとても可愛い。
 僕より年上のはずなのに、僕よりも落ち着きがないなんて。

 ……まぁ、こういうコトに年上も年下もないのかもしれないけど。

「あ……直人君、重かったでしょ」

「え?」

 冬海さんはのそっと起き上がって、枕にしていた僕の腕にそっと触れて。
 それでやっと、右腕の痺れに気付いた僕。

「大丈夫だよ……それより、もう少しこうしていようよ?」

「う、うん……」

 僕の言葉に、冬海さんは再び横になる。
 嬉しそうに、僕の腕を枕にして。

「えへへ……やっぱり、何だか恥ずかしいなっ」

 ぽふっ。

「そう? 僕は幸せな感じだけど」

 冬海さんの頭の重さくらい、何でもない。
 むしろ、その重さが心地いいくらい。

「しあっ……」

「ん? 冬海さん、どうかした?」

「……んーん、何でもなぁい」

 一瞬、何かを言いかけたみたいだったけど。
 すぐに、僕の身体に頬をすり寄せて来て。

「……私も、幸せだよっ」

 そっと、何か一言。
 小声だったのは、恥ずかしかったからだろうか。

「ん? よく聞こえないよ、冬海さん」

 ……でも。
 顔どころか、耳まで真っ赤にしている冬海さん。
 くふふふっと、嬉しそうに笑っている冬海さん。

 どんなことを言ったかなんて……別に、いいよね。

「……何でもないよ、直人君っ♪」

「……うん」

 そう答えながら、僕は。
 さっきより幸せな気持ちで、冬海さんの肩を抱き寄せるのだった。






<終わり>


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