三題噺/お題:『うそ』『サクラ』『縛』
ノックの音がした。 正確には金属バットで野球のボールをたたく音だ。 そして俺は後頭部に激痛を感じた。 「ぬおっ!?」 俺はその衝撃に前のめりになりながら、頭を抱えてしゃがみ込んだ。 「くっ…くぅぅーーーーーっ。」 あまりの痛みに声もなくうずくまっていると、 背後から甘ったるい声が届いた。 「お兄ちゃん、大丈夫ぅ?」 「っ、真奈美か。」 振り向くと金網ごしに髪の長い少女が立っている。 俺のうちの近所に住むふたつ年下の木月真奈美だ。 彼女は体操着にぶるまといういでたちで、髪を一本の三つ編みにしている。 そして、彼女の後ろの校庭では真奈美と同じ体操服姿の女生徒数人が ソフトボールをしているようだった。 おそらく来週あるクラス対抗の球技大会に向けて練習しているのだろう。 放課後の貴重な時間まで一年生はマジメなことだ。 「ごめーん、脅かすだけのつもりだったんだけど―――。」 真奈美が言い訳がましく謝る。 「あぁー?」 よく見ると真奈美の手には金属バットが握られていた。 それに金網には直径10センチほどの穴が空いている。 最後に俺の足下に転がっている軟式野球のボール。 これに今の真奈美の言葉を加えれば得られる真実はひとつだ。 つまり、 俺を脅かそうと真奈美のノックしたボールは、 おそらく金網に当てるだけのつもりだったのだろうが、 偶然空いていた穴を抜けて俺のどたまに直撃した。 と、そういうわけだ。 ことの次第に気づくにつれ、俺の頭に血液が上っていく。 「真奈美っ! てっめぇ―――っ!!」 思わず怒鳴った俺だが、 いきなり大きな声を出したためぐわんと頭にまた痛みが戻った。 「ぐぅぅっ」 俺は再びしゃがみ込む。 「あっ! お兄ちゃん! い、今そっち行くから!」 そういって真奈美はバットを捨てて、 右手にある出入口を通りこっちに向かって走って来た。 * * * 「お兄ちゃん、大丈夫?」 「あぁ」 真奈美の何度目かの「大丈夫」を聞いて、 俺もまた何度目かのいいかげんな返事を返す。 あれから俺は真奈美に連れられて保健室へとやってきたが、 保険医の先生は不在で、無人の部屋はがらんとしていた。 それでも真奈美は手際良くアイスノンを見つけ出すと 俺の後頭部を冷やし始めた。 が、そのかっこがちょいとすごかった。 俺をベッドに座らせ頭を下げさせると、 向かいあうように丸イスを置いて真奈美が座る。 俺の頭に覆い被さるようにして、アイスノンを頭にできたこぶに当てる。 真奈美は体操着のままなもんだから、 俺の視界はこいつのブルマと太ももでいっぱいである。 それにときどき頭のてっぺんにぶつかって触れてくるのがなんなのか、 それを考えるだけでその手の人間には十分なオカズである。 「う〜む。」 「あっ、痛む?」 俺がうなった意味を真奈美が勘違いする。 痛みはいいかげん和らいだのだが、 なんかこの体制を崩すのが勿体ないような…。 しかしまだまだオコサマの真奈美には良く分かっていないようだ。 「でもお兄ちゃんも悪いんだよ。」 「なんだよ。」 「だって、いくら呼んでも気づいてくれないんだもん。」 「呼んだ?」 「うん、お兄ちゃーん、お兄ちゃーんって。」 「それじゃ、どこの誰が、誰の兄貴を呼んでんだか分かんないだろ。」 単に聞こえてなかっただけなのだが、 俺はそんなどうでもいい屁理屈を返す。 「…でも、…真奈美の声は聞き分けて欲しいよ…」 「…」 少し沈んだトーンの真奈美の声が頭上から落ちてくる。 不意に水滴がひとつ、俺の首筋に当たった。 涙? 俺はいささか動揺する。 「あっ、ヨダレ垂れちゃった。」 「あーのーなーーっ!」 流石に俺も顔を上げた。 おそらくこめかみには怒りの漫符が浮かんでいたことだろう。 真奈美は「ごめーん」とか言いながらテレテレと笑っている。 反省の色がたりねーな。 俺はゆっくり立ち上がり、机の上に無造作に置いてあった医療具の中から 包帯を一巻き手に取った。 それからまだ座っている真奈美を見下ろし、 「そうだ、忘れるとこだった。」 「? 今月のお題?」 「そういや、まだ出てこないな。―じゃなくて、お・し・お・き だ。」 「えっ? きゃっ!」 俺は真奈美の両手首を掴むと、持っていた包帯でぐるぐる巻きにしてしまう。 真奈美の持っていたアイスノンがぺしゃりと床に落ちる。 「やんっ、お兄ちゃん!なにすんのよっ!」 抗議を無視して、俺は真奈美をベッドに押し倒す。 「えっ、やだ、まさか…」 「ぐふふふ、そのまさかだよ。」 乙女の危機に打ち震える少女。 だが欲望を剥き出しにした男(つまり俺だ)は容赦なく襲い掛かった。 少女は抵抗を試みるが、獣と化した男(ようするに俺)との力の差が 歴然としている上両手を縛られているため、たやすくあしらわれてしまう。 狂った男(しつこいが俺)の指が無垢な少女の肌を犯していく。 男は少女のウィークポイントを的確に攻め立てた。 男の指がもたらす刺激に白い喉をさらし、身悶える少女。 幼さの残る顔に苦痛とも快楽とも付かぬ表情が浮かぶ。 可憐な唇からこぼれる甘い叫びが室内に響いた。 「やぁ〜ん、だ、だめぇ、はぁん、死んじゃう! キャ、キャハ、キャハハハハハッキャゥ! キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! ヒッ、ヒィーッ。 も、もうやめれぇ〜っ。」 「ええい、まだまだじゃ、それ、こちょこちょこちょこちょ。」 「キャッ、ゆ、ゆるひてぇ〜〜。キャハハハハハァ!」 なお続く男の攻め(単にわき腹をくすぐっているだけなのだが)に真奈美は ベッドの上でバタバタと暴れる。 笑い過ぎて苦しいのだろう、包帯の巻きついた手をお腹に当てているが、 その声ももう笑いにならず「ひーひー」としか聞こえない。 (しかし、こいつとこんな風にじゃれ合うのは何年ぶりだろう。) そんなことを考えていると、 ぱさり。 あまり暴れたせいで三つ編みが解け、 真奈美の髪が白いシーツの上に広がった。 (おっ…) 思わず、俺は手を止めて真奈美の姿を見入ってしまった。 頬をサクラ色にそめ、はぁはぁと荒い息を繰り返すその表情。 めくれあがった体操着からちらりと見えるひかえめな胸のふくらみ。 そしてブルマからすらりと伸びた細い足。 興奮のためかそこかしこの筋肉がときおりひくひくと振るえている。 俺の鼓動が早くなる。 どきどきどきどき。 本気でヤバイと感じたそのとき、 ごつ。 誰かが俺の後頭部を硬いもので突いてきた。 それはタンコブを直撃し再び俺に激痛を叩き込む。 「ぐぉ…!」 「あっ、神代先生っ。」 いつからそこにいたのか白衣の女性、 この部屋の主である保険医の先生が立っていた。 手には厚さ3センチはあろうかとうハードカバー。 おそらくコレで俺の頭を小突いたのだろう。 禁煙パイプを咥えた口を面倒臭そうに開く。 「お楽しみの最中悪いが、そろそろ閉めるんでな。 そういうことはうちに帰ってやれ。」 「「・・・はい。」」 俺たちはすごすごと保健室を後にした。 * * * それから俺は真奈美が制服に着替えるのを待ってから、 ふたりして学校を出た。 そのころにはもうすっかり辺りは暗くなっていた。 「ねぇ、お兄ちゃん。」 「なんだぁ。」 「あんなこと他の女の子にしちゃだめだ〜よ。」 あんなコミニケーションをとる相手なんて兄弟や幼馴染ぐらいのもんだ。 普通の女子にあんなくすぐり攻撃をかけたら嫌われるだろ。 「しねぇよ。」 「ホント?」 「当たり前だろ。」 「ふぅーん。」 「…」 しかし答えてから「あうゆうプレイもありなのかな?」などと考えてしまう。 それに感づいたわけでもあるまいに、 真奈美が疑わしそうな目をこちらに向ける。 そして、右手の小指を俺の目の前に突き出した。 「じゃ、約束。」 「…お前、ほんと指切り好きだな。」 そうこいつはことあるごとに指切りをしたがる。 だが、まぁ、いいだろ。 こんなことに付き合ってやるのも普段「お兄ちゃん」などと 呼ばれている者の勤めだ。 俺はズボンのポケットから手を抜き出し、同じように小指を立てる。 真奈美はうれしそうに指を絡めた。 「じゃ、お兄ちゃん。約束だからね。 真奈美以外の女の子の裸に触っちゃダメだよ。」 「えっ?」 「ハリセンボンの〜ます、ゆびきった♪」 お決まりの掛け声を早口で唱えると、絡めていた小指を解く。 思わず立ち止まってしまった俺を置き去りに、 真奈美はすたすたと先を歩いていく。 彼女が数メートルほど歩いたところで、俺はうしろから呼びとめた。 「真奈美ーっ、肉まん食って行こーぜ。」 「えっ?」 不意の提案に振り返った真奈美は 案の定というか耳まで赤くした顔を見せる。 俺は左手にあるコンビニエンスストアを指し示しながら、 言葉を続けた。 「先週指切りしたよな、おごってやるって。 俺が約束やぶるようなウソツキじゃないって知ってるだろ。」 「……うん!」 真奈美は大きく頷くと、うれしそうな顔で小走りに駆けて来る。 おしまい。