三題噺/お題:『レンガ』『50』『毛玉』

大地の守護戦士

かわうそ



 茶色く染まった荒野を眺めていると、毛玉のような動物が群れをなして走ってい
く。
 ウルウルというその動物は、彼が生み出したものであった。
 正確には、彼が戦ったときの余波により大地が傷ついた時、そこからなぜか生ま
れてきた生き物である。
 そう、彼は常に戦いに身をおいていた。
 腰には小ぶりな剣。彼の持つ武器はそれだけである。
 彼はその剣にすべてを賭け、この荒野を生き抜いてきていた。
 その剣こそが、彼の存在意義であるかのように。

 4ヶ月前。この世界特有の地殻変動がもっとも盛んな冬の只中。
 地殻変動より引き起こされる雷雲の下で、彼は魔術師と戦った。
 魔術師は杖の一振りで、雷雲から稲妻を呼び、荒野を雷撃で満たした。
 しかし、どのような雷撃もしょせんはこの世界の理から生み出される力である。
 この世界の守護戦士たる彼を傷つけることは出来ず、この世界そのものを傷つけ
ることも出来なかった。
 だが、同時に魔術師もこの世界を生きるものであった。
 彼は魔術師を止めることは出来ても、殺すことは出来なかった。
 地殻変動が終わり、雷雲が消滅し、魔術師が力を失う春になるまで、戦いは終わ
らなかった。
 魔術師は、彼の手で地脈の底へと封じられた。

 そして50日前。西のウェストバレーと東のチェストタウンの狭間にあるこの荒野。
 ここで彼は真の敵と戦っていた。
 冬が終わり、春の前触れとされる大洪水の季節を経て大地は安定期に入っていた。
 が、ここ数年にわたり、安定期になると現れるのがこの魔獣だった。
 〜古に異界より現れし魔獣。地脈を喰らい、吐き出す酸は大地を侵す。
 神は悲しみ、人の生きし地を守るため、大気にちからを与えん
 地はちから持ちし大気に満ち、魔獣ちから失いこの地より去る〜
 伝説はこう語っている。
 しかし、現実に魔獣は現れこの大地を蝕んでいた。
 神の与えた大気が力を失ったのでは、と神官達は議論していたが、
 そんな議論に結論がでたところで、現実は変わらなかった。

 彼は命を賭して戦っていた。
 この世界より生まれたものならば、彼は傷つくこともなく勝つことが出来る。
 しかし、魔獣は外部よりこの世界にやってきた侵略者だった。
 伝説のとおり、魔獣は酸を吐いた。異世界の酸は、彼をも溶かす。
 しかし、彼が避ければ酸は大地に落ち、世界そのものを侵す。
 大地の守り手である彼に残されたのは、
「己が身体で酸を受け止め、その隙に魔獣を倒す」
 というただひとつの答えだった。
 彼が倒れたそのとき、魔獣により地脈は寸断され、世界は存在を許されなくなっ
ただろう。
 己と大地のつながりが魔獣に侵されていくのを感じながら、彼はひたすら剣を振
るった。
 一体。また一体。倒しても倒しても、魔獣は現れた。
 目がかすみ、バランスが崩れる。それでも体は、剣は魔獣へと向かっていく。
 薄れ行く意識の中、彼は確かに神の声を聞いた…

…あれ?それ、私のプレゼント?まだ持ってたの??
…あたりまえだろ。あんな熱烈な告白と一緒に受け取ったんだ。捨てられるわけが
ないじゃないか。
…もうっ。恥ずかしいからやめてよね。
…「あなたの心を閉じ込めるレンガの壁よ。浮気なんか許さないんだから」……怖
かったなあ。
…やめてっていってるでしょっ。いいじゃない。あのころは若かったんだからっ
…使いまわしの効くレンガ色のセーターに、そんな意味をこめるってのが君らしい
よな。
…っっっっ!!信じられないっ。もう、ばかっ。
…ちゃんと娘にも聞かせてやらないとな。お母さんはこんなに怖かったんだぞって。
…恥ずかしいお父さんね。そんなに長持ちさせるつもりなら、ちゃんと防虫剤の交
換くらいしたらどうなのっ
…はいはい、わかりましたよ。あれ?ワンポイントが取れかかってるな。
…ナイフのマーク?たしか「浮気したら刺すからね」って意味でつけたのよねえ。
…こっちにもそんな意味があったのか…刺される前にはがしてしまうとしよう。
…なにいってるの。ちゃんと付け直すからこっちに頂戴。
…荷造りの最中にお裁縫?
…今やらないと、また冬までしまっちゃって忘れるでしょ。ほらはやく……………


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