三題噺/お題:『レンガ』『50』『毛玉』

僕と君と50の毛玉

羽生七生




 煉瓦造りのお屋敷には、50毛玉が転がってニャーニャー。

 廊下、踊り場、台所、ついでに僕の書斎も、あいつらの楽しい遊び場。
 あっちいってニャーニャー、こっちきてゴロゴロ。

「あれ、どうにかなんないの?」
 と、ふわ毛入りの紅茶をすすりながら、僕。
「さあ、にぎやかでいいんじゃありませんか?」
 と、お盆を抱えて澄まし顔の君。

 これじゃ、どっちが使用人か分からないけど、エラいのは君の方なのは確実。
 ご飯を作るのも、掃除をするのも君だから、君がいなければ、夜も日も、盆正月
もこない。
「50匹のご飯も、51匹のご飯も作る手間は一緒ですからね」
 僕のご飯は毛玉のおまけらしい。

 天涯孤独だと思ってた僕に、親戚がいたと知ったのは、その人が死んでから。な
んと、その人が大きなお屋敷を僕に残してくれたと聞いて、二度びっくり。永らく
清貧な生活を送っていた僕であるからして、喜んでほいほいと引っ越してきたはい
いが、これが御覧の通りの毛玉屋敷だったわけで、三度びっくり。
 暫し呆然と立ちつくしている僕に、一応出迎えてくれたらしい君は開口一番、
「あなたが52番目ね」
「はい?」
 後で聞くと、この屋敷に住み着くようになった順番のことであるらしい。ちなみ
に人間は僕以外にはもう一人だけ。
 人間と毛玉を、同列にカウントするんですか?という疑問はとりあえずあげない
でおいて。いや、やっぱり新参者は控えめに、ということで。

 しかし、今やこの家の家長として、押しも押されぬ地位に立った僕としては、ち
ょっとばかり権威を主張したくなるのである。
「あいつら、僕の本をびりびりに破いたんだけど」
「だから、大切なものはちゃんとしまっておくようにいったじゃありませんか。ち
ゃんと片づけておけば、爪研ぎ板の代わりになんてされませんよ」
「……ごめんなさい」
 僕の権威は、彼女の爪研ぎ板程度であるらしい。

 午後のサンルームはぽかぽかで眠くなる。
 いつのまにか、毛玉たちも集まってきて、ごろごろうとうと。床に毛玉のカーペ
ットができてる。
「ねえ、お昼寝しない?」
 カウチの上のクッションを、のっかってる毛玉ごとそっとずらして、ちょっと隙
間を空ける。
「お夕飯、遅れちゃいますよ」
 君はするりと僕の傍らにすべり込み、ぽふっと頭を預けてくる。
 君の頭をなでながら、僕はくすっと笑い。君は不思議そうな顔をした。
「どうしました?」
「いや、ウチの51匹めは、特に可愛いなって思って」
「……大事にしないとダメですよ」
「もちろん」

 煉瓦造りのお屋敷では、50と2の毛玉が寄り添ってスヤスヤ。


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